マイナンバー制度成立までの歴史
いわゆる共通番号制度は、海外では多くの国で導入されています。
わが国のマイナンバー制度も、その系譜に連なる制度ですが、今回は、わが国に於けるマイナンバー制度導入までの歴史を振り返ってみます。
わが国では、マイナンバー制度が導入される以前から、番号制度の導入が試みられてきました。
(1) 国民総背番号制度
1968年(昭和43年)に、佐藤内閣が「各省庁統一個人コード連絡研究会議」を設置して、行政機関の業務の無駄と国民へのサービスを向上することを目的として、各省庁が統一の個人コードを利用する番号制度の導入を検討しました。
しかし、このいわゆる「国民総背番号制度」は、管理社会につながるのではないかといった危惧などから反対意見が多く、頓挫しました。
(2) 納税者番号制度
その後は、政府税調による納税者番号制度の検討が中心となります。
「昭和54年度の税制改正に関する答申」で納税者番号制度の導入を検討すべきとの意見が記載されたことに始まります。
納税者番号制度の検討は進められ、納税者番号をキーとした所得の名寄せを可能にすることにより、個人の所得の捕捉状況を改善するとともに、税務行政の高度情報化を推進し、行政効率の向上を図ることを目的とした番号制度が提唱されました(「政府税制調査会納税者番号等検討小委員会報告(昭和63年)」)。
1980年(昭和55年)には、納税者番号制度に類似するグリーン・カード制度(少額貯蓄等利用者カード)を導入する所得税法の改正が行われましたが、制度実施への反対が強くなり、1985年(昭和60年)には改正法が廃止されて制度の導入は失敗に終わりました。
その後も、政府税調は、毎年のように答申において納税者番号制度の必要性について言及しましたが、実現しませんでした。
(3) 住民基本台帳ネットワークシステム
税番号制度とは別の流れとして、住民基本台帳ネットワークシステムがあります。
住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)は、市町村が個別に保有する住民基本台帳をネットワーク化し、全国共通の本人確認ができるようにするシステムです。
1994年(平成6年)より自治省(現総務省)を中心に検討が進められます。
1998年(平成10年)には住基ネットを導入する住民基本台帳法の改正法案が国会に提出され、翌1999年(平成11年)に改正法が成立しました。
2002年(平成14年)8月から住基ネットが稼働し、住民への住民票コードの通知等が始まり、2003年(平成15年)8月から住民基本台帳カード(住基カード)の希望者への交付が始まるとともに住基ネットが本格的に運用されています。
住基カードは、写真と基本4情報(氏名・住所・生年月日・性別)等が記載され、ICチップが埋め込まれています。住基カードは公的な身分証明書として利用することができ、インターネットを使った電子申請での本人確認に使えるほか、市町村が行う独自のサービスが受けられるなど、マイナンバー制度における個人番号カードに類似した機能をもっています。
しかし、平成26年3月末時点での住基カードの累計交付枚数が約834万枚(普及率は5%程度)にとどまるなど、住基ネットの利用・普及が進みませんでした。
その理由としては、国民・住民の利便性を高めるという視点が不十分であった、国民・住民の個人情報保護に対する意識の高まりへの対応が後れたことなどが指摘されています。
なお、住基ネットの導入については、個人情報保護の観点からの反対が強く、これを直接の契機として、個人情報保護法制が整備されました。
すなわち、住民基本台帳法の改正にあたり、自由民主党、自由党及び公明党の3党間で民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備が約束され、2003年(平成15年)に、民間部門を対象とした「個人情報の保護に関する法律」(個人情報保護法)が成立しています。
同法と同時に、行政機関個人情報保護法(1988年に成立していた行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律を全面改正)と独立行政法人等個人情報保護法も成立しています。
(4) マイナンバー制度導入の動き
近時のわが国は、少子高齢化の進行による高齢者の増加、労働人口減少が続き、「格差社会」という言葉に象徴される所得格差や低所得者層の増加といった問題への不安も高まっています。
このため、従来以上に、社会保障と税を一体としてとらえ、正確な所得等の情報に基づいて適切に所得の再分配を実施し、国民が社会保障給付を適切に受ける権利を守る必要に迫られています。
そのためには、複数の機関に存在する個人の情報が同一人の情報であるということの確認(「名寄せ」)を行うことが必要なのですが、わが国には名寄せのための基盤が存在しないという問題がありました。
そこで、番号を用いて所得等の情報の把握と所得情報の社会保障や税への活用を効率的に行い、情報通信技術を活用することで効率的かつ安全に情報連携を行える仕組みとしての番号制度を整備する必要性が指摘されるようになりました。
それまでの番号制度が税の捕捉といった面から議論されがちであったのに対し、このころから、給付のための番号として制度設計すべきである、公平性・透明性を確保し、もって本当に困っている人を助ける社会インフラとしてのメリットが国民に感じられるものとして設計されなければならないといった視点が強調されるようになりました。これは、税番号制度導入の試みがことごとく失敗したことや、住基ネットの利用が進まなかったことに対する反省でもありました。
2009年(平成21年)12月、平成22年度税制改正大綱で「社会保障制度と税制を一体化し、真に手を差し伸べるべき人に対する社会保障を充実させるとともに、社会保障制度の効率化を進めるため、また所得税の公正性を担保するために、正しい所得把握体制の環境整備が必要不可欠です。そのために社会保障・税共通の番号制度の導入を進めます。」と、マイナンバー制度の原型についての言及がなされました。
これ以降、マイナンバー制度導入の動きが活発化し、政府の「社会保障・税に関わる番号制度に関する検討会」や「社会保障・税に関わる番号制度に関する実務検討会」などで検討が進められました。
こうして、2013年(平成25年)のマイナンバー法(番号法/番号利用法)の成立に至ります。
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